山口さんに対しても、牧野に対してもこの芹澤という男は誠実ではない。どちらに対しても真剣に向き合っていない。誠意の欠片もない。今までの恋愛で傷付け傷付けられてきたのではないのか。何も学んでいない。進歩していない。人の気持ちを弄んでいる。

作中の山口さんの回想シーンからは芹澤への強い想いが窺えて胸にこみ上げるものがあった。両親からの重圧に耐えながらも期待に応えるべく精一杯努力をし、そんな中で初めて出会った自分の恋心。戸惑いながら、不慣れながらも初めて自分の意志で決めた芹澤のところまで懸命に歩んでいき、やっとの想いで想い人の胸の中へたどり着くことができた嬉しさがひしひしと伝わってきた。そのことにこの男は気付いてあげることもせず、土足で人の好意を踏みにじっている。

勿論、所詮は他人であって自分ではないから他人の気持ちに気付くことは難しいし、気付いてあげないから悪だとは言わない。牧野にだって、深く描かれていないだけで山口さんのように芹澤への想いがあるのは明白なのだし。

だが、少なくとも真剣な気持ちをぶつけてきてくれる相手に対してあまりにも失礼すぎるのではないか。期待を持たせ、希望を見せた上で突き落とすのはあまりにも残酷だ。優柔不断にも程が有る。自分の気持ちしか考えておらず、その自分の気持ちでさえ真剣に向き合おうともしない。すべてがその場しのぎ。その時々の感情だけで動いている。相手がどう想っていて、どんなことを言ったら、どんなことをしたら傷付くかまで考えが及んでいない。もっと言えば、こいつは相手を傷付けたくないという雰囲気を醸し出しているが自分が一番傷付きたくないようにしか見えない。考えているのはいつも自分が一番気持ちのいいことだけ。芹澤自身には悪意がないところがさらに厄介。... 続きを読む
(palpal 2014年09月20日) from Amazon Review

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