芹澤の境遇についての描写はもっと掘り下げて欲しかったものの、作品自体は十分楽しめました。

父親をクズと評している芹澤ですが、自分自身もまた同じ穴の狢であることも自覚している様子。
勝手な想像ではありますが、幼少期より父の背中を見てきたことが彼の人格形成に少なからず影響を与えてきたのは否定できない事実でしょう。また、両親から十分な愛情を受けてこなかった描写から、母性愛への飢えを感じているようにも見受けられました。

したがって、最終的な結末として結ばれるであろう相手が彼女であったことは芹澤自身にとって幸いなことであったと思います。思い返せば、交際中に芹澤を叱咤激励したのは彼女だけでした。
年齢を重ねているから大人だとは限りませんが、他のどの交際相手よりも器量さがあったのは確かだと思います。

しかし、別れ際はあまりにも酷いものであんなのは大人の対応でも何でもないとも思うかもしれません。芹澤嫌いの私は当初「ざまあみろ、当然の報いだ!」とも思ったわけですが、彼女が自ら悪役を引き受けることで芹澤への傷を最小限に押し留めたとも言えないでしょうか。そもそも別れには痛みが付き物ですし、意思疎通ができていない状況で押し問答を繰り返しても双方の傷が広がるだけです。

恋人なのだし、多かれ少なかれ見返りは求めてしまうもの。彼女は年齢的に焦ってはいましたが、同じ結婚でも最終巻である本巻で最年少の彼女が求めてきたもののそれとは実に対照的であったと言えます。年齢、容姿、思い詰めるまでの過程、考え方などあらゆる意味でも大人と子供という正反対な立場でのまとめ方に落とし込んだのは実に見事な構図だと思います。

本作品では、言葉足らずが原因でそれを言っていれば、実行していればかけ違いが起こることもきっとなかったであろうに、というもどかしい場面が数多くありました。
でも、思っていても言えなかったり、動けなかったりするのは現実世界でもよくあることです。
そんな中、彼が最後に勇気を振り絞ったのが自分の思い通りになるような新しい相手ではなく、自分にとって大切だと思った相手に対して向けられたものであったことには大きな成長を感じました。... 続きを読む
(palpal 2016年05月16日) from Amazon Review

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