川本家に侵入者として突如現れた三姉妹の父親誠二郎。乱された川本家の平和を取り戻すべく誠二郎に真っ向から立ち向かう桐山君、誰もが唖然とする爆弾発言まで発して…。前巻の後半で桐山君の本気と勇気と男気を痛烈に感じました。そして本巻でも執拗に川本家につきまとう誠二郎に桐山君は自分の持てる全てを投じて対峙します。それは棋士が自分の全力を賭けて対局相手とまみえるように、理詰めで読み筋を誤らずに相手を詰みまで追い込むように。棋士としての桐山君と重ね合わせて作者が描いているように感じました。そして誠二郎にまつわる一連のトラブル決着がつくシーン、意外なあっけない終わり方に感じましたがそこには桐山君の奮闘があったからこそだと思わせるものがありました。もう桐山君は川本家になくてはならない存在なのではないかと。初めは人に頼るばかりの存在だった桐山君が頼られる存在になっていった、でもこれは成行きではなく主人公の成長に合わせて必然的にそうなるべく作者が張っていた伏線だったのだとあらためて感じます。

そして気になるのは爆弾発言の行方。どう収拾させるのかとおもいきや、ああこういう落とし方があったのかと感心ものです。ストーリーの展開としてはシリアスでシビアなはずなのに思わず笑わずにはいられないユーモアのペーソスがバッチリ効いていて、ストーリーが一本調子で堅苦しくならないように見事に中和されていますね、しかもそのバランスのとり方が絶妙、作者の力量を思い知らされます。

前巻あたりから本来の主人公の桐山君が前面に出てきて、しかも以前とは人が変わったような成長を見せて物語がグッと締まってきたように思います。大切なひとたちを守るために自分の全てをふりしぼる時、人はこんなにも成長するのだろうか、そんなふうに感じさせる桐山君の成長に目をみはりました。周りから見れば愚直で滑稽すぎるかもしれない、でもそんな桐山君の真直ぐさが好きだし、カッコいいと思いました。でも全てがいいことずくめではないのですね、川本家の姉妹たち、とりわけあかりさんの背負っているものの重さには心が痛みます。... 続きを読む
(有閑子 2015年09月25日) from Amazon Review

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