1950年代のスウェーデンに暮らすイングマル・ヨハンソン少年。父は外国へ出稼ぎ中、母は病に倒れている。踏んだり蹴ったりに思える人生だけど、スプートニクに乗せられた実験犬よりはまだましだと自分に言い聞かせる毎日だ。
 そんな彼がひと夏、叔父夫婦に引き取られて片田舎の村で暮らすことになる。そこでの一風変わった人々との出逢いの中で、少年は確実に成長していくことになる…。

 「ギルバート・グレイプ」と「サイダーハウス・ルール」の原点といえるハルストレム監督作品。お見事、と言って良い秀作です。

 人生とは、様々なものを失いながら成長すること。そんなことを思う映画です。イングマルが犬のマネをするのは、これ以上自分から何かがもぎ取られることに少年なりに抵抗を示すための手段だといえます。自らの吠え声で、襲い掛かる世間を振り払おうとするかのようです。しかし怯えた犬ほど激しく吠えるもの。その吠え声は彼が押しつぶされる直前にあることを象徴しています。

 しかし、彼は失うと同時に多くを得ていくのです。穏やかに眠る彼と“彼女”のラストシーンまで、見る者を捕らえて離さない魅力に満ちています。

 ラストシーンのラジオ中継はスウェーデン人以外には理解しづらいものでしょう。
 これはスウェーデン出身のプロ・ボクサーIngemar Johanssonのヘビー級タイトルマッチ(59年)です。彼はアマ時代のヘルシンキ五輪(52年)では準優勝しながら、試合でベストを尽くさなかったとみなされて銀メダルを剥奪されてしまいます。しかし彼はプロ転向後に世界チャンピオンとなった実在の人物。メダルは30年後、彼に返還されます。
 つまり同姓同名の国民的英雄が勝利を収める試合を挿入することで、イングマル少年が不幸な現実に屈することなく、必ずや希望に満ちた人生を歩むに違いないということを、この映画は最後に明示しているのです。
(yukkiebeer 2005年03月26日) from Amazon Review

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